大人の嗜み 第二回

線香花火で一盃。常温で粋を感じる。

世は節電ムード。冷やさずに涼をとるのが粋。秋の足音が近づいていれば、なおさらです。
大きな花火大会が終わったいま、線香花火に興じながら日本酒を一盃…なんて、いかがですか。外の空気も少しずつ優しくなっています。冷房なんていりません。そんな時は、日本酒も常温で。
お酒そのものが持っている旨さの妙はもちろん、蔵元の心意気も感じられるはずです。

人生に例えられる線香花火。

火を点けてからしばらくくすぶり、やがて火玉が成長し、光の矢束となって放散。それを幾度か繰り返した後、力弱く垂れ曲がり、ゆっくりと落ちていき、淡く儚い夏の宵闇が残る。 戦前の物理学者であり随筆家・俳人でもあった寺田寅彦は短編集「備忘録」で、線香花火一本の燃え方を、誕生から終焉までの人生に例えています。「起承転結があり、詩があり、音楽がある」とも記しています。 線香花火の火玉の移ろいには名前が付いています。「蕾→牡丹→松葉→散り菊」。その名前からも線香花火の光景が思い浮かぶなんて、なんとも粋だと思いませんか。

【蕾】
点火とともに、命が宿ったかのように酸素を吸い込みながらどんどん大きくなっていく火の玉。 今にも弾けそうな瞬間は、さながら花を咲かせる前の「蕾」のようです。

【牡丹】
やがてパチッ、パチッと一つずつ、力強い火花が散り出します。称して「牡丹」。迷いながらも一歩一歩進んでいく青春時代を彷彿させます。火花の間隔は、徐々に短く…。

【松葉】
やがて勢いを増し、「松葉」のように次々と火花が飛び出します。結婚や出産、子供の成長、優美な火のアーチを眺めていると、不思議と幸せな出来事が重なります。

【散り菊】
火花が一本、また一本と落ちていく「散り菊」。静かに余生を送る晩年といえます。赤から黄に変わった火の玉が光を失った瞬間、線香花火の一生は幕を閉じるのです。

線香花火 こぼればなし その1  その名の由来

江戸時代の書物に、花火を香炉に立てて遊んでいる様が描かれています。
それが仏壇の線香に似ていることから「線香花火」の名が付いたと言われています。
また、線香花火には2種類あり、ひとつは管の中に火薬を入れたもので、手に持って上に向けたり立てたりして楽しむ「スボ手牡丹」、もうひとつは和紙に火薬を付けて縒った「長手牡丹」。
関西では線香花火と言えば「スボ手」のほうが馴染み深いそうです。

線香花火の情緒を取り戻せ。

火玉が落ちやすい…。情緒がなくなったようだ…。 昔の線香花火を知る人たちから、そんな声が聞かれます。実は現在、国産の線香花火は1%にも満たないと言われています。巷に出回っているほとんどが海外で作られた輸入品。原材料も違う、伝統を受け継いだ職人の手仕事でもないのですから、かつての線香花火と違うのは仕方のないことかも知れません。 しかし、数年前、それを憂い、ロマンを求めた人たちが立ち上がりました。純国産の線香花火を復活させよう!線香花火にかつての情緒を取り戻そう! 日本中を歩き回って原材料を探し、引退していた職人に頼み込んで、あの情緒たっぷりの伝統的な線香花火を復活させます。そして、この動きに触発された人たちが次々と一念発起。純国産の線香花火を楽しめるようになりました。そんな線香花火を愛でながら、日本酒を一盃。コレこそ、粋な和の嗜みと言うのではないでしょうか。

線香花火筒井時正

職人の手によって一本一本丁寧に縒り上げられる。

筒井時正玩具花火製造所

日本で三社しかない国産線香花火の製造所のひとつ。福岡県みやま市高田町で伝統の光を守り続けています。

福岡県みやま市高田町竹飯1917
TEL 0944-67-2335 FAX 0944-67-2347
info@tsutsuitokimasa.jp http://www.tsutsuitokimasa.jp

線香花火 こぼればなし その2  純国産激減の理由

線香花火の命は紙縒(こより)。これを程良く堅く縒れないとキレイな火花が飛びません。
その職人がいなくなったことが、純国産線香花火が激減したいちばんの原因。 また、原料のひとつである和紙は「楮(こうぞ)」で作ったものが最も美しい火玉を作ると言われていますが、 上質のものが少なく価格も高額。もうひとつの重要な原料「松煙(=松の切り株を焼いた時に出るスス)」も 極めて入手困難に。輸入物は松煙の代わりに合成品を使用しているそうです。

常温で粋な和を愉しむ。

和の情緒たっぷりの線香花火。さらに、浴衣と団扇があれば、もう冷房はいらないでしょう。そして、日本酒も常温で愉しんでみてはいかがですか。真夏のキンキンに冷えたお酒もいいですが、この時期なら常温で飲むのもオツなもの。ゆっくり静かにグラスや盃を傾け、舌で、口で、喉で、お酒そのものの味や香りを確認するように飲んでみてください。香りはどうか、口あたりは軽いのか濃醇なのか、まろやかなのかシャープなのか、味と香りのバランスは…などなど。そんなこんなを思い、感じながら、飲むのも、愉しいものです。冷酒や燗酒では味わえなかった何かが感じられるかも知れません。その何かが、あなただけの粋な嗜みになることでしょう。

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