機械は手段。ふなぐちは、蔵人の五感で完成する。
「あの年は、いつものふなぐちとして仕上がるのか心配で眠れませんでした。」2023年。猛暑と少雨。新潟で収穫された米は、小さく、硬いものでした。「日本酒は、微生物の力を借りてできあがる飲みものです。だから正確に言うと同じ方法でつくっても同じ酒は2度とできません。」どんな米の状態からでも、いつものふなぐちを完成させる。高級酒のように最高の原材料で最高の味をつくることに日本酒づくりの技術に対する注目が集まりがちですが、ふなぐちのように通年販売する商品をいつもの味に仕上げる再現性の高さにもまた、蔵人(くらびと)の高い技術が必要なのです。


古来、日本酒は秋に実った米を使って冬の間に醸造し、春に新酒ができあがる、農閑期に手づくりするものでした。現代になり、一年中スーパーやコンビニで販売されるふなぐちのような商品は季節を問わず蔵が稼働するため、米の保管状態やその日の気温や湿度など、外的要因に影響を受けます。「ふなぐちの味には社内基準があります。酒を搾った段階で蔵人全員で利き酒をし、品質を確認した上で次の工程に送ります。」データによる数値も活用しますが、結局最後は蔵人の五感の力を通さなければ、ふなぐちのおいしさは完成しないのです。その完成されたおいしさをすべての人に届ける。その役目を担ったのが、缶でした。
